紀伊半島の環境保と地域持続性ネットワーク 紀伊・環境保全&持続性研究所(三重県津市)
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三重県のため池の生物

  アカトンボ

 秋空に群れをなしてアカトンボが飛び交い、地上にはコスモス、ススキなど秋の草花が咲く光景は日本の秋の風物詩である。しかし、最近はこのように秋空に群れ飛ぶアカトンボの姿を見かける機会が少なくなった。

  アカトンボとは

 アカトンボとは、胴体(正確には胸部や腹部)が赤ないし黄色のトンボを指して呼ばれ、田んぼや雑草地上を群れて飛んでいるアキアカネなどのアカネ属のトンボや、胴体が黄色いウスバキトンボなどが含まれる。ちなみに、分類学的にはショウジョウトンボ(写真:左下)はショウジョウトンボ属、ウスバキトンボ(写真:右下)はウスバキトンボ属であり、アカネ属とは異なる分類群に属する。

 頭から胴体まで全体が真っ赤なショウジョウトンボは、夏の比較的早い時期からため池などに現れ、単独で行動する。雄は縄張りを作って縄張りに入って来る雄を追い払う。

 ウスバキトンボ

 ウスバキトンボは、日本では越冬できずに亜熱帯、熱帯地域から毎年海を渡ってくる。そして、水田などで繁殖しながら日本列島を北上し、8月から9月頃になると個体数が増えて、田んぼや雑草地の上で群れをなして飛び交い、地方によっては「盆トンボ」と呼び、先祖のお使いとして捕獲しないようにと言われている。ウスバキトンボは飛翔力に優れ、多数が群れ飛ぶが、捕虫網で空中捕獲しようと試みても素早くてなかなか捕れるものではない。ウスバキトンボは秋空に群れ飛んでいることが多く「アカトンボ」と勘違いされる場合がある。筆者が沖縄に赴任しているときに、ウスバキトンボが秋に群れをなして一斉に南西方向に飛んでいる光景が見られ、南方の越冬地方向に移動しているのだと沖縄の研究者に教えられたことがある。

 アカネ属

 アカネ属の中で秋空に群れ飛ぶ種類はアキアカネである。筆者は、2〜3年にわたり津市近郊のため池でトンボの調査をしてきたが、アカネ属では8種が確認され、このうち、比較的多く観察されたのは、ノシメトンボ、マユタテアカネ、マイコアカネ、ナツアカネ(写真:左下)、アキアカネ(写真:右下)、ミヤマアカネであり、コノシメトンボ、リスアカネは少なかった。

 日本には21種類のアカネ属のトンボが記録されているが、このうち、17種1亜種が生息し、タイリクアキアカネ、オナガアカネの2種が定着未確認種、スナアカネが偶産記録があるのみである(石田ら、1988)。また、山本ら(2009)の発刊した「近畿のトンボ図鑑」には17種類が掲載されている。さらに、トンボ池で有名な静岡県の磐田市にある桶ヶ谷沼では12種(静岡県では16種)が記録されている(桶ヶ谷沼ビジターセンターだより、第89号)。



 ナツアカネとアキアカネを見分ける

 筆者は初めてトンボの観察を始めた当時、ナツアカネとアキアカネの判別を難しく感じた。専門書にはアキアカネの胸部の黒条斑の先端が尖った形態をしており、ナツアカネのそれは横断的に平らに切れた形態を示すと書かれていたことによる。しかし、今から思うとナツアカネの黒条斑の先端が尖った形態のものと平らな形態のものが有ったために判然としなかったと思われる。夏から9月中旬までこれぞアキアカネという個体が採集されることがなくずっと疑問に思っていたところ、9月中旬になって、突然、雑草地上数m以上の高さを群れ飛ぶアカトンボが現れ、もしかしてアキアカネではないかと考え、苦労して採集し観察するとアキアカネであった。その形態はナツアカネよりやや大きく、後翅の幅が広く、胸部の条斑にナツアカネにはない特徴(胸部の右側と真ん中の条斑から相互に横に条斑が出て結合)があることから、アキアカネと確信し、それ以降、ナツアカネとの判別が極めて容易になったという経験がある。なお、アカネ属のアカトンボの見分け方は、日浦勇著「自然観察入門」に分かりやすく書かれている。

 アキアカネの飛翔移動

 三重県中勢地方のアキアカネの生態については、石田昇三氏により「伊勢平野の沼や水田で羽化した個体は鈴鹿山系に登り、真夏の暑い期間を標高1,200m前後の山頂付近で生活する」ということが報告された(昭和44年:1969年)。これらのアキアカネは、9月中旬〜10月上、中旬に平野部に移動して、稲刈りを終えた水田などに産卵する。産卵は雌雄が連結したままで稲刈り後の水田の水溜まりや泥になどに産卵する。卵は田んぼが乾燥しても生存し、田に水が入ると孵化する。

三重県では、昭和46年から毎年夏季に御在所岳でアキアカネのマーキングを行う催しがあり、秋になってどこで再捕され、どこまで移動しているかを観察する活動が行われている。


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